2016年2月11日木曜日

ビシュケクの家庭料理店「亘」

天山山脈の麓のイシク・クル湖で名高いキルギス共和国の食事はとても美味しい。首都ビシュケクに駐在していた時の悩みの一つは体重管理だった。羊の肉の串焼きであるシャシリク、中国新疆省とは山を越えてお隣なのでスパイスの効いたラグマンなど麺類の味も素晴らしい。南部のオアシス地帯の米で炊いたプロフも旨い。職場のキッチンでロシア人のおばさんが時にはロシア風に、時にはキルギス風に腕を振るってくれたので始めは楽しんでいた。味は街のレストランにひけをとらないし、量がたっぷりだ。若い同僚たちは喜んでいたが、これにつき合っていてはメタボ一直線だ。だからと言って食べ残すとこのおばさんはとても悲しそうな顔をするので困った。仕事の用事のついでに外でお昼を食べることも多かった。

いつも行くのはあっさりした日本の家庭料理が食べられる「亘」さんだった。アフリカでの開発関係の仕事で知り合ったご夫婦が現地のスタッフと協力してオープンした料理店だった。当時の職場から車で10分位の場所にあり、ワカメキュウリ酢と冷奴とざるそばを食べるのが楽しみだった。この店では大滝豆腐店の手作り豆腐を使っていた。キルギスが大好きで住み着いた大滝さんという人が自宅で作った豆腐を販売し、お弁当の配達もしていた。手作り豆腐は予約制で、出来上がりの日に受け取りに行った。このお店のざるそばもシコシコで美味しかった。アジア系のお店からの食材調達などの工夫のおかげで手ごろな値段なのも魅力で、地元の人にとても人気があった。

日本料理と言えばロシア風のスシ・バーと衣の厚い天ぷらが主流だった時代だったのでとてもありがたい店だった。奥さんは厨房でシェフとして地元のスタッフを指揮して忙しかった。ご主人はフロアの支配人として目を配っていたので地元スタッフの対応が日本的でとても感じが良かった。客が帰るときにはご主人とならんでまだ小さかったお嬢さんたちが見送ってくれて恐縮した。この奇跡のようなお店は彗星のように登場したが、その後ご主人が体調を崩され惜しまれつつ閉店した。今でも多くの人々の記憶に残っている。







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