2016年2月11日木曜日

EBRDマケドニア・カントリー・ストラテジー(2006年)体験記

欧州復興開発銀行(EBRD)は支援対象国に対して3年ごとに各国別の支援戦略ペーパーを策定し、これまでの当該国における銀行の活動状況と政治・経済情勢を振り返り、その活動を活性化させるためにどのような対応が必要なのかを関係各国、関連国際機関、NGO他の関係者と協議するための資料として活用している。今回、マケドニアに対する新ストラテジーが7月11日にEBRD理事会で承認された。

新ストラテジーはマケドニア政府が2005年12月にEU 加盟候補国の地位を獲得するに至った過程で、法制面で多くの改革努力がなされたとともに、財政の健全運営に向けて地道な努力をしてきたことを高く評価する。一方で、これらの改革が実際に施行され、沈滞する経済の活性化、36%を超える失業率の改善に寄与するのでなければならないことを強調し、そのためにEBRDとしてどのような貢献がなしうるかという視点からの業務計画となっている。

その骨子は以下の通りである。

• 中小企業(SME)をはじめとするビジネス環境の改善に向けて協力を継続する。
• 銀行部門の強化を通じて、中小企業金融の活性化を図る。
• 公的部門の民営化、商業化と地方分権化政策への支援を通じて、外国投資(FDI)の増加と、インフラの近代化を支援する。

新ストラテジーの目玉として、西バルカン地元企業支援の新ファシリテイ、マイクロおよび中小企業〈MSME〉支援の新クレジット・ライン・ファシリテイに加え、本年5月のEBRD年次総会の時に11か国が支援方針を表明した西バルカン・マルチ・ドナー基金の積極的活用などがある。これらは手法としては、EBRDにおける最貧地域である中央アジア、コーカサス7カ国を対象にパイロット・プログラムとして、スタートしたETC〈移行途上国〉ストラテジーのもとでテスト済みのものである。こうしたドナー国との協調を前提とする新アプローチがバルカン地域でも認められたことは、EBRD全体として、既にEU 加盟を果たすに至った移行先進地域の支援からもっと東の後進地域〈バルカン、コーカサス、中央アジア、ロシアの周辺地域〉に活動の中心を動かそうとする銀行全体の活動戦略を反映したものとなっている。

事務局としてのストラテジー準備作業は三段階に分類される。

• 要約版の作成とそのEBRD理事会承認(2006年2月―4月初め)
• 要約版の公示と関係各層からの意見聴取(4月―6月初め)
• 全体版の作成とEBRD理事会承認〈5月ー7月初め〉

以前のタシケント事務所時代は、ストラテジーの業務部分の作成と全体のチェックは担当したものの、取りまとめの総括は本部の中央アジア局が行っていたので、今回は初めての経験でいろいろ戸惑うことになった。チームが変われば、同じ仕事でもやり方が変わるのは、国際機関の場合珍しくない。

具体的な草案作成にあたっては、スコピエ事務所長、EBRD政治顧問、マケドニア担当エコノミストの三人がチームとなり、さらに銀行局各部門〈電力、運輸、自治体インフラ、金融、マイクロ・ビジネス、農業チーム他〉のバンカー諸氏、環境スペシャリスト、プロジェクト評価担当、法務担当のそれぞれに対して専門の箇所について原稿を依頼し、締め切りを交渉し(皆さん他の通常業務で忙しい)、あがってきた原稿に問題がありそうな場合は理由を明示して改善を提案することになる。こうした草案作成プロセスを了えて、主管部局の局長、EBRDの業務委員会(Operations Committee)、さらに経営委員会(Executive Committee)の審査を経て理事会に二度〈要約版と全体版〉提出するには、約半年の調整と根回しを必要とした。この間他の業務もあるので決して楽ではない。

年明け以降、国としての地位確定問題と大統領交代のあおりを受けて活発化したコソヴォ対応の業務が増えたことと、ちょうど三月に数年に一回くらいの理事会メンバーによるスコピエ訪問とが重なり、新ストラテジーの準備に十分な時間が取れないのではないかと心配した。結局、理事会ミッションの準備がそのまま新ストラテジーの草案作成に活かされ、予定通りに準備作業を進めることが出来た。4月早々に要約版をEBRDウェブ・サイトに公示すると在スコピエの諸機関〈IMF, EU, 世銀、EAR〉や、各大使館から現状分析の部分について貴重な示唆とコメントを頂いた。またNGOとの接触を積極的に行い、その会合に参加した地元の二つのシンク・タンクから多くの質問を受け取った。それらを24項目に分類し、Q&Aの形で、これも理事会承認を得て、EBRDウェブ・サイトに公示した。6月27日にリハーサルとも言うべき理事会ワークショップを経て、そのコメントを最終版に取り込み、7月11日の理事会発表を迎えた。

理事会の審議はその直前の7月5日に行われたマケドニアの総選挙で政権交代が明らかになったことから、このように大きな政治情勢の変化がEBRDの業務にどのような影響を与えるのかについての議論にしぼられた。事前の根回しでは、新ストラテジーの承認延期も必要かという見方も出ていた。仮に延期ということになれば、新政府がスタートするのは9月の半ばのことになるので、承認は年末になりかねない。実務方としては、ストラテジーの空白によって、新規プロジェクトの発掘・準備作業に無用の遅れを生ずる結果になりはしないかと危惧した。追い風となったのは、総選挙に勝ったVMRO-DPMNE連合の選挙用の百頁におよぶ新政策マニフェストが、EBRD新ストラテジーの骨子と極めて良く合致しており、随所にEBRDを含めた国際金融機関との協調が掲げられていたことだった。理事会メンバーからの質問に対し、この点を具体例をあげて説明すると、満場一致で延期の必要はなく、新ストラテジーは承認との結論となった。EBRDの超ベテランの政治顧問であるクリスが政権交代に至った過程と今後のシナリオを雄弁に語ってくれたことも決め手となった。

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