2016年2月11日木曜日

カタリーナの思い出 キルギスの上・下水道整備プロジェクト

ビシュケクから東へイシク・クル湖に向う道を一時間ほどドライブするとカントという小さな町がある。この街の上・下水道整備にEBRDが関わったことをまとめたビデオを、今はグルジアの首都トビリシに駐在しているカタリーナがシェアしてくれた。キルギスなど財政事情の厳しい国で、国家保証を必要とするインフラ整備の融資案件をまとめるのは容易なことではない。「むやみに融資しても、借金が増えるだけだ」、「本当にリターンが期待できるプロジェクトなのか」、「本当に人々の生活向上に貢献できるのか」という古典的かつ当然な質問をクリアする必要がある。わたしがビシュケク事務所長として赴任した2007年の末の時点ではEBRDによるこの国の公共部門への融資はゼロだった。

その頃ビシュケク上下水道整備プロジェクトを自治体インフラチームのシニアバンカーとして準備していたのが、当時はモスクワに駐在していたカタリーナだった。スイスの無償援助とのマッチングによりIMFの規制をクリアし、本部の法務部、エコノミスト部などとの調整を大変な腕力で推進したカタリーナだったが、2008年段階でキルギス政府との交渉が難航していた。2009年の夏にまとまるまで一年がかりの交渉となった。わたし自身が責任者だった1997年の送電線整備プロジェクト以来12年ぶりにキルギス政府への支援案件となった。

その後この上・下水道整備案件はモデルケースとなりあちこちでリピートされた。カタリーナとは気が合ったこともあるが、仕事の分担について明快な線引きがあってやり易かった。本部チーム所属のバンカーと一緒に仕事をすると、現場対応が必要な仕事であっても順調なものは本部チームで、うまく行かないものは現場の事務所でという線引きをする人が多い。カタリーナのやり方ははっきりしていた。ビシュケク事務所の方が効果的に対応できるものは任せてくれたので仕事はやり易かった。

2012年の理事会ミッションがキルギスを訪れ、現地を視察した時に、他の国に比べてキルギスでの自治体インフラ・プロジェクトの件数が多いことに興味を持った某国の代表理事が、「どうしてEBRDのファイナンスに興味を持ったのですか?」 という質問をした。これは実は「他のもっと有利な機関から援助してもらうこともできたのでは?」 という意味が隠された、ちょっと意地悪な質問だった。 「ここを訪れてくれた日本人の所長のプレゼンに納得したからだ」 という答えが返って来たとカタリーナが教えてくれた。キルギスの駐在勤務ではいくつか楽しい思い出があるが、これもその一つになった。

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