2009年の10月にイシク・クル湖南岸に位置するクムトー金山を訪れた。この金山はキルギス共和国の貴重な財源だ。クムトーはキルギス語で砂の網を意味する。カナダの資本にカナダ政府、IFC、EBRDなどの支援で1997年に金山の操業が開始された。沿岸の町タムガから2時間ほどで標高1600mの湖畔から一気に標高3600mの鉱山のベースキャンプまでランドクルーザーで鉱山道を登る。採石場はさらに30分ほど上った標高4000mの高さにある。天山山脈の最高峰は7400mのパヴェダ峰(勝利峰)だが、金山から5千m-6千m級の山並みが見渡せる。意外なことにキャンプの周辺は急峻な山場ではなく、初雪の後の白い台地が広々と続く。まったくの別世界である。
金山への出入りは厳格に管理され、用事で訪れる人は必ず入山前の健康診断を受け、高山病予防の錠剤をもらう。アルコールは持ち込み禁止。キャンプには1400人ほどの人が働き、生活している。通常のシフトは2週間山に入り、2週間下界で休養する。当初から周辺地域から希望者を採用してきたがほとんどの人は定収入が入ると山村地域を離れ、子供の教育や生活に便利なビシュケクに移住してしまった。働き手の一家の主人がビシュケクから2週間ごとに片道5-6時間かけて金山に通う。こうした事情が金山がキルギスのGDPのおよそ2割を占める重要産業であるにも関わらず、地元は十分な恩恵を被っていないとして環境NGOの批判を受ける一因となっている。
隣国ウズベキスタンのザラフシャン金山もそうだが、クムトー金山も金鉱石を砕いたかけらをさらにシアン液で溶かして金を取り出す。1998年に粒状のシアンを積んだトラックが山道を踏み外して沢に転落して以来、事故後の対応をめぐり政府、地元に対し経済活性化への支援を含む補償を行っている事業者と、批判を続けるNGO の間で議論が続いてきた。新しい争点は金山のさらに上方に位置する氷河が地球温暖化の影響で溶け始め、やがては鉱区を押し流すことにより環境が汚染されるというものだ。地元の活動家は国内では完全に孤立した少数派だ。国際NGOから活動費の支援を受けている。事業者は十分以上の補償と地域振興費を払っていると胸を張るが、それが当局によってどう使われたかが不透明だとNGOは批判してきた。地元側が地域への利益還元を増やすべきだと主張する気持ちもわかるが、技術とノウハウを持った西側投資家をあまり追いつめるのは得策でない。元も子もなくなったら一大事なのだから。
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